【読書感想】ウィザーズ・ブレインⅡ 楽園の子供たち
あなたは、守りたいものができたとき、命を懸けて守れますか
守りたいものに守られたとき、生き抜いて笑おうと決意できますか
いよいよこのブログ一番の目的、読書感想を垂れ流していきたいと思います。
今回の本は、
『ウィザーズ・ブレインⅡ 楽園の子供たち』(著:三枝零一 絵:純珪一 電撃文庫)
です。
実は、こういうブログを始めるとしたら、一番最初に書こうと決めていたのがこのウィザーズ・ブレインシリーズの第2巻である本書でした。
個人的にこのウィザーズ・ブレインシリーズにはまるきっかけとなった一冊で、どうしてもこの本を知ってもらいたいという気持ちが抑えられないという理由からです。
ウィザーズ・ブレインは電撃文庫で長期連載されているシリーズの中では比較的マイナーですが、伊達に長く連載が続いているわけではなく、作りこまれたリアリティ溢れる世界観と、絶望渦巻く世界の中で戦い続ける登場人物たちの苦悩が丁寧に描かれています。
理系の人には特におすすめしたい一冊です。
あと、中二系の人とか?(笑)
本書、『楽園の子供たち』は、ウィザーズ・ブレインシリーズの始まり三部作のうち、ちょうど真ん中にあたる作品です。
前の巻である『ウィザーズ・ブレイン』が、天樹錬とフィアを主人公にシティ神戸で巻き起こした騒動(なんてレベルじゃない)の話であったこととはうってかわって、旧シティ北京上空に浮かぶ島が舞台です。更に登場人物までもがガラッと変わり、通常の小説やライトノベルの型式とは一風も二風も変わった物語の展開を見せています。
ここで、「いやいや、そもそもウィザーズ・ブレインってなんだよ」という方のために、少しばかり物語の概要の説明をば。
ウィザーズ・ブレインは、西暦2200年前後を中心に展開される、魔法士と人類の生存を巡る物語です。
「シティ」と呼ばれる超巨大建築物が乱立し、国家の概念が吹き飛び、人口問題や環境問題を一通り解決したはずであった世界。大気制御衛星を両極に打ち上げて環境すらコントロール下に置き、人類の理想郷を築いていたはずであった。しかし大気制御衛星の原因不明の暴走により遮光性気体の『雲』が地球全土を覆いつくすと、太陽光エネルギーに依存していた人類は残り少ない資源を巡って全世界のシティを巻き込んで第3次世界大戦へと突き進むこととなった。
いくつかのシティは新たなる理論「情報制御理論」が提唱する
『情報と現実世界はリンクしており、情報側に好きな設定を押し付けるだけの演算速度があるPCを用いれば、情報側を書き換えることで、それとリンクする現実世界の物理法則も書き換えることができる』
という考えを基にして、超高速演算能力を持つ生体コンピュータ「I-ブレイン」を持つ人間兵器、通称『魔法士』の開発に勤しみ、この悲惨な大戦の中で強力な軍事兵器として大いに発展する。
しかし、大戦が進む中、とある魔法士が用いた情報制御が切欠でアフリカ大陸が消滅。2048もあったはずのシティが残り7つまで減ったところで人類がようやく停戦すると、歩く戦略兵器である魔法士の扱いは非常にデリケートなものとなった。
そして、氷点下40度にもなる閉ざされた大地でエネルギー問題に苦しむ人類は、超高性能PCであるI-ブレインを持つ魔法士の脳を利用するシティ専用の巨大永久機関『マザーシステム』を開発。既存の(I-ブレインを後天的に埋め込まれた)魔法士の脳を『マザーコア』として永久機関の中枢に利用し、人類は辛うじて生き延びていくことになるが……
という感じです。多分ネタバレではないと思います。もしネタバレだったらコメなどで注意をお願いいたします。
長々となってしまって申し訳ないのですが、結構詳細に書いてしまったので勘弁してください。
いよいよ本題です。またまた長文となってしまいましたが、以下から読書感想をどうぞ。
※※※以下には、多分にネタバレが含まれています。お気をつけください※※※
『これからも、がんばろう。』
ここで泣ける人、仲良くしましょう(笑)
さて。
私が初めて本書を読んだのは、おそらくですが高校1年あたりだったと思います。確かこのころには『賢人の庭』の下巻辺りまで出ていたと思いますが、1巻目を読み、2巻目を読んだ後、全力をもって全て買いそろえました。
中二病丸出しかもしれませんが、理科や哲学が好きだった私にとって、このシリーズはあらすじだけでも買ってしまうような、そんなドンピシャな本でした。
本書は、1巻目であるウィザーズ・ブレインが『最愛の1人の命か、無辜の市民1000万の命か』をテーマとする大きな話であったことと比べると、比較的小さいものであるといえると思います。前作のような壮大なテーマを想定していると、あれ、と感じることもあるかもしれません。
しかし。
しかしです。本書が取り扱う内容は、決して軽いものではありません。
いずれ消えゆく命をどうしていくのか。
無垢に信じていた世界が全て嘘であったら、どうなるのか。
自分の根幹以外が自分のものはでないとわかったら、私は一体何なのか。
ある意味では、壮大すぎた前巻よりもグッと物語が自分に近付いたとも思います。
私はもうずいぶん前にこの本を読んだので、どうしても最初の感想は思い出せません。
10回は読み返しているし、何より、先の巻で先に進む彼らを見ています。
その上での感想として、
「ヘイズかっけぇ。指パッチンかっけぇ」
それが、今回本書を読み返して、やっぱり思ったことです(笑)
突然ですが、私はこの本に出てくる『ヴァーミリオン・CD・ヘイズ』というキャラクターが大好きです。
後々に出てくるアニルやイルも好きですが、2巻のヘイズには勝てません。いやアニルは勝てるかも……
『失敗作で、他とは圧倒的に一線を画すI-ブレインの能力で、超絶王道主人公体質の赤い空賊。そして指パッチン』
なんて能力を持つヘイズが颯爽と登場し、巻き込まれのお人好し体質で『龍使いの島』でわちゃわちゃする序盤から中盤は、シャオロンのヤキモキやハリーとのやりとり、そして裏で付いて回るタイムリミットと緊張感なんかも含めて最高です。
最後にどうしても見捨てることができず、ヘイズがファンメイを助けるために構築中のプログラムを捨て去る決断をする場面なんかは言いようのないカッコよさを。
そして、妹分たちを助けるために全てを捨て、シティそのものと全面戦争を決断するヘイズは、男として、人間として、そして弟妹を持つものとして、憧れと尊敬を。
培養層で失敗作と呼ばれ、仮初の家族も奪われ、それでいて遺言通りに、生きて、突っ走って、這いつくばって、そして笑う―――
文字通り、後悔しないように生き抜こうという意思を見せ続けるヘイズは、私が理想とする姿の一つとなっています。
ここまで書いていて思うのは、やっぱりこの巻って前巻のような大きなテーマは無いんだな、ということです。深いバックボーンと魅力的な登場人物たちが織り成す個人的な心の動きが中心となっていて、隔離された楽園に住む隠された魔法士の子どもたちと、それを軍に売り飛ばす仕事を受けた同じく魔法士の青年の心情を汲み取りながら、時系列に沿って読み進め、そして終わっていく感じです。
それでも作中屈指のかっこいい能力を持つヘイズが大活躍して盛り上がるし、龍使いの彼らはとても生き生きとしているし、巷でよく言われるように、物理学に彩られた理論の話も1巻に比べればかなり読みやすくなっていると思います。
最後まで読み込んだとき、そして最新刊まで読んで読み返したとき。
きっとファンメイの決意がとても胸に来ると思います。
また支離滅裂な文章になってしまいましたが、今回はここで終わろうと思います。
ヘイズ、本当にかっこいいんですよ。指パッチンはこの巻のせいで練習しました(笑)
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
このお話に少しでも興味を持たれたら、あるいは読み返そうと感じてもらえたら、ウィザーズ・ブレイン好きとして本当にうれしく思います。
では、また。
とりやまちとせ